誰かに聞いても
現実の彼が、女の子に対してこんな口を利いたことは一度もなかったが、全く違和感はなかった。今の彼は、ごく普通っぽい男子高校生で、すっかりクラスの中に溶け込んでおり、女の子みんなから関心を寄せられる存在なのだ。
『何で、あたしのせいなのよ? 』
『何でだー? ゆうべ夜中に韓國 午餐肉電話かけてきたのは、どこの誰だ? 』
『だってー。どうしても、らいたかったんだもん。 』
『何でそれが、俺じゃなきゃなんねーんだ? 』
『ごめんごめん。ほら、手近にいて、暇そうな人間っていったら、あんたくらいしか思いつかなくて。 』
『おめーなー! そういう言い方って、ねえだろう? 』
……。クリック。クリック。
会話は、延々と続く。信一は、あっという間に現実世界のことを忘れ、ストーリーの中へと没入していった。
『荻野くん。由美ちゃん。どうしたの? 』
『川村紗織里ちゃん』が、校門のところで彼を待っていた。身体の前を隠すように、両手でカバンを持ったポーズで。
『いやなにー。ほら、信一が、朝からつまん韓國 午餐肉ないことばっか言うもんだから……。 』
だが、信一は、もはや由美のセリフなど読んでいなかった。彼の目は、『紗織里ちゃん』に吸い付けられていた。
邪魔な会話のウィンドウなどをいったん全部消して、『紗織里ちゃん』の可憐《かれん》な絵姿をじっくりと鑑賞する。
二十八歳の荻野信一は、二次元の世界に住む美少女に恋をしていた。彼にとって、これほど真剣な恋は、生まれて初めてと言っていい。
『紗織里ちゃん』……。信一は小声でつぶやいたが、ヘッドホンをしているために、自分の声は聞こえなかった。こんなにそばにいるのに、どうして手が届かないのだろう。
ほっと溜《た》め息をついてから、会話のウィンドウを戻す。現実の世界とは違い、授業はあっという間に終わって放課後となり、次の選韓國 午餐肉択肢が出た。
1 紗織里ちゃんと、日曜日の約束をする。
2 紗織里ちゃんを、ツーショットに誘う。
3 帰宅する。
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